ヘルスの思い出
韓国の人は、運動を習慣的に行っている人が多いなと思う。町中の公園には、ちょっとした運動器具が合って、いつ行ってもだいたい誰かが運動している。最近のアパートには、住民だけが使えるジムがあったりもする。男性は特に、筋肉に強い思いがある人が多いので、シックスパックを手に入れるため、そして維持するためせっせと筋トレに励む。
群山のアパートから自転車で20分くらい離れたところに、ジムがあった。韓国ではジムのことをヘルスという。初めて聞いたら、ちょっと誤解されそうだけど、れっきとしたジムである。
時間を持て余していたこともあって、一時ダイエットのため、そのヘルスに通っていたのだが、午前中は比較的すいていたので、行くときはだいたい午前中だった。
ランニングマシーンとか、簡単な筋トレを週数回1時間程度してから帰るだけの、やる気のないヘルス通いだったし、全羅道の美味しいご飯をたらふく食べ、お酒もよく飲む生活だったので、ダイエットの意味はまったくなかったけれど。
あるとき、更衣室にある体重計にふと乗ってみた。前述のようにやる気のないダイエットだから、体重を都度都度チェックするわけでもなかったけれど、その日は更衣室に一人だったこともあり、ふと思い立ち乗ってみただけなのだが、それがよろしくなかった。
いつの間にかお掃除のおばさんが、更衣室に現れて、あろうことか体重計をのぞき込んできたのだ。初対面の知らないおばさんが、チラ見でもなく、とても自然な動きで、堂々と横に立ちまじまじとのぞき込んできたのだ。そして、アイグー!もっとがんばらないとね、と一言、それも割と大きめの声で。失礼な!と憤慨することも忘れるほど、あっけにとられてしまった数分間だった。
これは、若かりし20代前半の女子だった私にはけっこうショックな出来事だった。どういうことよ?他人の体重計の数字をそんな堂々と見る?親や友人でもそこまでしーひんやん?
でも、知っている。これが韓国なのだ。悪気も何もないのだ。ただただ、好奇心だけなのだ。本能のままの言動なのだ。そして、韓国人同士なら、そんな失礼にならないのだと思う。場合によれば、つかみ合いのけんかに発展する可能性と紙一重ではあるが。
そう言えば、韓国の町中を歩いていると、すれ違う時にやたらジロジロ見られることがあった。ジロジロというよりは、かなりジーっと見られるといったほうが正しいかもしれない。え、何?顔になんかついてる?服装変?絶対、わたし変に思われてるー!と焦るのだが、韓国人に聞けば、ただただ好奇心で見ているだけなのだそうだ。同じアジア人やし、顔つきそんな変わらへんでー、特に目立った格好もしてへんのにーと思うのだが。好奇心に正直なのが韓国の人らしさなのかもしれない。
この出来事が引き金ではないけれど、これ以降このヘルスには通わなくなった。韓国生活の中でこれ以降どこのヘルスにも通わなかったから、体重目撃された事件は唯一のヘルスの思い出である。
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