
図書館の思い出
群山大学には、大きな図書館があった。私が日本で通っていた大学にももちろん図書館の棟はあったが、調べもののために行く場所という感じだった。地下に書庫があり、1階と2階にも多くの本が収蔵されていた。大きなテーブルがいくつかとイスが置かれていて、そこで調べものにふけった。主に中世の文学を学んでいたので、図書館には足繫く通ったし、4年間みっちりお世話になった。
群山大学の図書館は、私が知っている大学の図書館とは少し違い、本が収蔵されている場所というよりは、自習をする場所という感じだった。大きなテーブルはなくて、仕切りのある個人用の小さな机がズラーっと並んでいる自習室がたくさんあった。そして、いつも朝早くから夜遅くまで自習をしている学生で満員だった。
私も、図書館の静かな雰囲気と、ピリッとした空気感が好きでよく通った。ここで韓国語か英語の勉強をよくしたが、まわりの学生の熱心な姿に刺激されるのかとても集中できた。おもしろかったのは、時々、栄養ドリンクの会社の人が自社の栄養ドリンクを無料で配りにくることだった。無言でそっとドリンクを机の端っこに置いてまわる。よくあることなのだが、最初はびっくりした。うっかり受け取ろうものなら、代金を請求されるのではないかと心配したものだ。地下鉄内で、違法だが物販をしたり、なにか主張する人が、座っている乗客の膝の上に商品やら冊子やらをのせていくことがある。あれは、うっかり受け取ると、買う意思がありと見なされて代金を請求されるので、一切触れてはならないと教えられたが、図書館内で配られる栄養ドリンクはそのまま受け取ってよいらしかった。試飲品的なものなのだが、こんなことをされると、ええ会社やん、このドリンク美味しいやん、となってしまうのが私なので、今でも韓国に行くとこの時のドリンク会社贔屓である。
また、少し休憩したいときや、学食でのランチ後には、よく1階の入り口近くの自販機のコーヒーを飲んだ。紙コップの少量のさして美味しくもないコーヒーだったが、一杯300ウォンだったと記憶している。安かったから、いつも誰かが買ってくれていたように思う。韓国のこの文化好きやわ。ラインナップは、甘ったるいコーヒーと、うっすーいアメリカンと、なぜかユルム茶だった。当時ブラックは飲めないお子ちゃまの舌だったので、甘すぎるほど甘いコーヒーを選んでいたが、美味しくもないと思いながらも、習慣になり毎日コーヒーの時間が癒しでもあった。
勉強をしているとき、私はよく音楽を聴いた。今の人は知らないと思うけど、当時は時代の最先端MDというものがあった。日本にいるときに、せっせとCDをレンタルして、MDにダビングし、マイセレクション的なものをよく作ったものだ。好きだったのは、ウエストライフとか、ブリトニースピアーズとか、スピッツ。シャ乱Qもあったなぁ。
あぁ、もうこのへん死語だらけやわ。
ちなみに、私がコーヒーやらトイレやらで席を立っている間、まわりの席の知らない学生が、私が何のテキストを開いて、何の勉強をし、何の音楽を聴いているか、こっそりチェックしていたことは驚きを通り越して笑ってしまういい思い出だ。今なら、大問題やけどねぇ。
音楽を聴きながら、したいことを一生懸命勉強できたこの環境で過ごせたこと、いい時間やったなぁと思う。たぶん、今日のこの時間も、20数年前と変わらず、群山大学の自習室は勉強熱心な学生さんで満員なんやろうなぁ。人はいくつになっても勉強とは言うけれど、怠惰な毎日を過ごすばかりで、テキストもまっさらなままの私。学生さんからまた刺激もらうため、あの光景、見に行きたいなー。