歌の話
最近、仕事帰りに自宅の最寄り駅の前で、ひとりギター?を弾きながら歌っている男の子をよく見かける。立ち止まって聞く時間的な余裕がないのが残念だが、通りすがりにちょっと癒される。今日は歌ってはるやろか、と楽しみですらある。私たち世代のスピッツとか、T-BOLANから、今の流行りの歌まで、選曲も素晴らしいし、上手に歌い上げてくれる。 そう言えば、韓国では、こういうストリートミュージシャン的な人を見かけたことがない。歌の好きな人が多いイメージだが、道端とか駅前で歌ってる人はいない気がする。代わりに韓国で昔よく見かけたのは、オープンしたお店が開店イベント的な感じで、お店の前にエアーアーチやチューブマンを置いて、きれいなお姉さんが2人ほど音楽に合わせてセクシーに踊るというもの。そのとき流行っていた歌が、今もフレーズが耳に残っているWAXの오빠という曲だ。街中にこの音楽が大音量で響き、ミニスカートのお姉さんがクネクネ踊る姿は、群山到着2日目に初めて目にした。当時の韓国は、かなり保守的で、おへそを出した衣装でテレビに出てはいけないとか、ドラマや映画の中で煙草を吸うシーンはご法度だとか、いろいろ制約が厳しかった。だから、ミニスカートで、ぴったりした衣装を身に付けたお姉さんが見せつけるように踊っている姿は、何というか、口をぽかんと開けたまま見入ってしまうような衝撃だった。そして、同年代とは思えないくらい「お姉さん」だった。今はそんな場面に出くわすこともないと思うが、パワフルな韓国の風景として、오빠の曲と共に今も心に強く残っている。 私が群山に住み始めて少し経った頃、当時の金大中大統領が、日本文化の開放をして、合法的に日本の歌やドラマが韓国に入ってきた。韓国の周りの人たちには、キロロや宇多田ヒカルが大人気だった。ダンスナンバーが人気なのかと思いきや、日本の歌は断然バラードが人気だった。韓国でも、バラードを歌わせたら、チョソンモが一番だったから、バラードもよく聞かれていたのだが。 もしかしたら、外では陽気に踊りながら歌を楽しみ、一人の時間にはバラードにしっかり浸るのが、音楽を楽しむひとつの方法だったのかもしれない。 韓国にも、ノレバンと呼ばれるカラオケがたくさんある。私も群山で何度かカラオケに行ったのだが、日本文化が解放されたとはいえ、当時はまだカラオケで歌える日本の歌は少なかった。それでも、韓国でカバーされた歌などもいくつかあったから、それを日本語歌詞で歌ったりもした。かなりうろ覚えの歌詞を適当にそれらしく歌っていたから、これは今思えば恥ずかしい思い出だ。日本だと、お酒を飲んだり、何かつまみながらカラオケを楽しむのが好きなのだが、韓国のノレバンはお酒もフードもなかった。お酒が飲めるカラオケは、ホステスさんがつくような高級なお店だけだった。ふつうのカラオケで唯一購入できるのは缶ジュース。しかも、昔ながらの250ミリリットルの細長い缶。法律の関係で酒類の販売ができないのだと思うが、カラオケにはお酒がほしい!と思ってしまうのは私だけだろうか。